。心の貧しい坊主どもが、新教的な陰気な萎縮《いしゅく》した悲哀の考えを、その中に交えてしまったのです。厭《いや》な献身でなければりっぱな献身ではない、とでもいうように……。馬鹿なことです。もし献身が、一つの悲しみであって一つの喜びでないとすれば、それをなすには及びません。なすに当たらないことです。人が身をささげるのは、でたらめにではなくて、自分のためにです。身をささげることのうちにある幸福を、もしあなたが感じないとしたら、勝手になさるがいい。あなたは生きてるだけの価値もありません。」
アルノー夫人は、クリストフの顔も見かねて、その言葉だけに耳を傾けていた。それから突然、彼女は立ち上がって言った。
「これでおいとまします。」
そのとき彼は、彼女が何か打ち明け話に来てるのだと考えた。そして言った。
「ああごめんください。僕はあまり勝手でした、自分のことばかりしゃべって。も少しいてくださいませんか。」
彼女は言った。
「いいえ、そうしてもおられません……ありがとうございますが……。」
彼女は帰っていった。
二人はそれからしばらく会わなかった。彼女はもう生きてるしるしだに見せなかった。彼のほうでも、彼女のところへ出かけて行かなかった。またフィロメールの家へも行かなかった。彼はその二人をたいへん好きではあった。しかし心悲しくなるような話が出るのを恐れていた。それにまた、彼女らの静平な凡庸な生活やあまりに希薄な空気は、今のところ彼の気に入らなかった。彼は新しい顔をながめたかった。新しい同情に接し、新しい愛に接して、ふたたび心を取り直さなければならなかった。
彼は気を紛らすために、久しい前から閑却していた芝居へまた行きだした。そのうえ芝居というものは、情熱の抑揚を観察し書き留めんと欲する音楽家にとっては、興味ある一つの学校のように思われた。
と言っても彼はフランスの戯曲にたいして、パリーへ来た当初よりも多くの同情をもち得たのではなかった。恋愛的精神生理学の無味乾燥な卑しいいつも同一な題材にたいして、彼はあまり趣味をもたなかったばかりでなく、フランスの芝居の言葉は、ことにその詩劇において、この上もなく虚偽なもののように彼には思えた。その散文も韻文も、民衆の生きた言葉とは、民衆の精神とは、合致していなかった。散文は、よいほうでは社会記事的なこしらえられた言葉であり、悪
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