ならしむる安逸の[#「感受性を狂暴ならしむる安逸の」に傍点]倦怠《けんたい》」を知った。楽しい時期は、歩みをゆるめ、勢い衰え、水なき花のようにしおれていった。空はやはり同様に青かったが、もはや朝の軽やかな空気はなかった。すべては小揺るぎもせず、自然は黙していた。彼らは願っていたとおり二人きりだった。――そして二人の心は切なかった。
 言い知れぬ空虚の感じが、楽しくなくもない漠然《ばくぜん》たる倦怠が、彼らに姿を見せてきた。彼らはそれがなんであるかを知らなかった。ただなんとなく不安だった。彼らは病的なほど感じやすくなった。沈黙をじっと聞き澄ましてる彼らの神経は、人生の些細《ささい》な不意の出来事にぶつかっても、木の葉のようにうち震えた。ジャックリーヌは理由もなしに涙を流した。涙の原因は愛であると信じたかったけれども、もうそればかりではなかった。結婚前の熱烈な苦しい年月を経て後、目的を達して――達してそして通り越して――突然あらゆる努力をやめ、あらゆる新しい行ないが――そしておそらくあらゆる過去の行ないが――にわかに無用に帰したので、彼女は自分でも訳のわからない惑乱に陥って、圧倒されてしまったのだった。彼女はそうだとは認めないで、神経の疲れのせいだとして、一笑に付し去ろうと思った。しかしその冷笑は涙と同様に不安なものだった。彼女は健気《けなげ》にもまた仕事にかかろうと努めた。けれど手をつけるや否や、そんなばかげた仕事に以前どうして興味をもち得たか、もうわからなくなった。厭《いや》になって仕事を放り出した。彼女は社交的関係にふたたびはいろうと努めた。しかしそれも同じくできなかった。一定の性癖がついていたので、この世では余儀ない平凡な人々や言葉に接する習慣を失っていた。彼女はそれらを笑うべきものだと思った。そういう不幸な経験から、まさしく恋愛ばかりがりっぱなものだと信じたがって、二人きりの孤独な生活にまたはいり込んだ。そして実際しばらくの間は、彼女は以前にもまして愛に駆られてるように見えた。しかしそれは、そうありたいと願ってるからであった。
 オリヴィエは彼女ほど熱情的でなくしかもやさしみの情はいっそう多かったので、それらの不安を感ずることは少なかった。自分では、漠然とした間歇《かんけつ》的なおののきを感ずるばかりだった。そのうえ、日々の仕事や好ましくない職業などの煩いのた
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