か。パストゥールは生涯《しょうがい》に十遍とは芝居へ行かなかったんだ。君はたいていの外国人と同様に、僕の国の小説を、大通りの芝居を、政治家らの策略を、馬鹿げて重大に考えてる……。がもし君が望むなら、いつでも僕は君に見せてあげよう、けっして小説を読まない婦人を、かつて芝居へ行ったことのないパリーの若い娘を、かつて政治に関係したことのない男子を――そしてそれが、知識階級のうちにあるのだ。君はまだ、僕の国の学者をも詩人をも見たことがないのだ。黙然として努力してる孤独な芸術家をも、革命家の燃えたった熱をも、見たことがないのだ。一人の偉大な信仰家をも、一人の偉大な無信仰家をも、見たことがないのだ。また民衆のことについては、云々《うんぬん》するのをよしたがいい。君を世話してくれたあの憐《あわ》れな女以外に、君は民衆について何を知ってるのか? どこで民衆を見たと言うのか。三階四階の上に住んでるパリー人を、君は幾人知ってるのか。そういう人々を知らなければ、フランスを知らないと同じだ。君は知るまいが、憐れな住居の中で、パリーの屋根裏で、黙々たる田舎《いなか》で、善良な誠実な心の人々が、その平凡な一生の間
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