間々には、生粋《きっすい》のフランス人などだった。
「その生粋のフランス人のことを僕は言ってるんだ。」とオリヴィエは言い返した。「君はまだその一人も見てはいない。遊蕩《ゆうとう》社会、快楽の獣ども、フランス人でもない奴ら、道楽者や政治家ややくざ者、国民に触れはしなくてその上を飛び過ぐる騒々しい連中ばかりだ。秋の日和《ひより》と豊かな果樹園とに寄ってくる蠅《はえ》の群れしか君は見ていない。勤勉な蜜蜂《みつばち》の巣、働きの都、研鑚《けんさん》の熱、それを君は眼に留めたことがないんだ。」
「いや、」とクリストフは言った、「選《よ》りぬきの知識階級も見たんだよ。」
「なんだって、二、三十人の文学者どものことなんだろう? 結構なことさ! 科学と実行とが大なる地位を占めた現今では、文学は民衆思想のもっとも浅薄な一層となってしまっている。しかもその文学においても、君は芝居をしか、贅沢《ぜいたく》な芝居をしか、ほとんど見てはいない。それは万国的旅館の富裕な客のためにできてる国際料理にすぎないのだ。なにパリーの芝居だって? 芝居でおよそどんなことが行なわれてるかを勉強家が知ってるとでも、君は思ってるの
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