すがすがしい声がした。もしその古い建物が、あたかも大地が熱に震えてるかのように、重い馬車の響きにたえず揺られることがなかったら、パリーの町であることを忘れてしまえるほどだった。
 一つの室が、他の室より広くて美しかった。二人の友は争ってそれをたがいに譲り合った。籤《くじ》を引かなければならなかった。籤にすることを考えついたクリストフは、悪い知恵を出して、われながら意外だったほど巧妙に、その室が自分の手に落ちないようにしてしまった。

 このときから、二人にとってまったく幸福な時期が始まった。その幸福は、ある一定の事柄のうちにあるのではなくて、すべての事柄のうちに同時に存在していた。二人のあらゆる行為と思想とを浸し、一瞬も二人から離れなかった。
 二人の友情の新婚期とも言うべき時期の間、

[#ここから3字下げ]
世界の中に一つの魂を自分のものと呼び得る人……
[#ここで字下げ終わり]

のみが知っている、無言の深い喜悦に満ちた最初の時期の間、二人はほとんど口をきかなかった。ほとんど口をきき得なかった。たがいにそばにいることを感じたり、長い沈黙のあとに二人の考えが同じ方向をたどってること
前へ 次へ
全333ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング