事を出した。十五歳のおり、友のオットーに書いた手紙と似たものだった。情熱と支離滅裂な言葉とに満ちていた。フランス語やドイツ語の駄洒落《だじゃれ》を交えていた。その駄洒落に楽譜をつけてまでいた。
 二人はついに住居を定めた。モンパルナス町のうちで、ダンフェール広場の近くに、古い家の六階に、台所付三室の住居を見出していた。室は皆狭かったが、四方を大きな壁で囲まれた小さな庭に臨んでいた。二人が住んでる六階からは、他よりも少し低い正面の壁越しに、パリーになお多く見受けるような、人に知られないで隠れてる修道院の大きな庭を、ずっと見渡すことができた。そのひっそりした庭の小径《こみち》には人影もなかった。リュクサンブールのそれよりもいっそう高くいっそう茂ってる老木が、日の光を受けてそよいでいた。小鳥の群れがさえずっていた。夜明けごろから笛のような鶫《つぐみ》の鳴き声がし、つぎには騒々しいリズムの雀《すずめ》の合唱となった。そして夕方になると、夏には、輝かしい空気をつき切って空に滑走する燕《つばめ》の、狂気じみた鋭い叫びが聞こえた。夜は、月光の下で、池の水面に立ちのぼる泡《あわ》に似た、蝦蟇《がま》の
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