知らず知らず自分の心を吐露していた。音楽は慎みのない腹心者である。もっともひそかな思想をも吐露してしまう。モーツァルトの緩徐曲[#「緩徐曲」に傍点]の霊妙な作意の下から、クリストフはモーツァルトのではなく、それをひいてる新しい友の、眼に見えぬ特質を見てとった、神経質な純潔な情け深い恥ずかしがりのこの青年の、憂鬱《ゆううつ》な静穏さを、内気なやさしい微笑を。しかし、その曲の終わりに近づいて、切ない恋の楽句が高まって砕ける頂点に達すると、オリヴィエは堪えがたい羞恥《しゅうち》を感じてひきつづけられなくなった。指がきかず音が不足した。彼はピアノから手を離して言った。
「もうひけません……。」
後ろに立っていたクリストフは、彼のほうへかがみ込んで両腕を貸してやり、中断した楽句をひき終えた。それから言った。
「これで君の魂の音色がわかった。」
彼はオリヴィエの両手をとり、その顔をまともにしばらくながめた。そしてやがて言った。
「不思議だなあ!……君には以前会ったことがある……僕はずっと前から君をよく知っていた!」
オリヴィエの唇《くちびる》は震えた。彼はまさに話し出そうとした。しかし口をつ
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