想の力は、しだいに磨《す》り減らされてゆくでしょう。」
「それがたいていの人の運命ではないでしょうか。あなた自身でも、憤りや闘いのうちに自分を無駄に費やしてはいませんか。」
「僕のは違う。僕はそのために生まれた人間だ。この腕や手を見たらわかるでしょう。奮闘するのが僕の健全な生活です。しかし君は、十分の力をもっていない。そんなことはよくわかってる。」
オリヴィエは自分の痩《や》せた拳《こぶし》を悲しげにながめて言った。
「ええ、私は弱いんです。いつもこんなでした。しかししかたありません。生活しなければならないんです。」
「どうして生活してるんです?」
「出稽古《でげいこ》をしています。」
「なんの?」
「なんでもです。ラテン語やギリシャ語や歴史の復習をしてやり、大学入学受験者の準備をしてやり、また市立のある学校で道徳の講義をしています。」
「なんの講義?」
「道徳です。」
「なんて馬鹿なことだろう。君たちの学校じゃ道徳を教えるんですか。」
オリヴィエは微笑《ほほえ》んだ。
「もちろんです。」
「そして十分間以上も話すだけの種がありますか。」
「一週に十二時間の講義を受け持っています。
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