[いやさしい愛情をいだいてることを、見てとったのだった。そして彼らに、それらドイツの大家連が彼らには他国人と思えるということや、フランス人がまったく愛し得るのは同民族の芸術家をのみであるということなどは、ほんとうではなかったのかと尋ねてみた。
「ほんとうなものですか!」と彼らは抗弁した。「批評家どもがわれわれの代弁をしてるのだと、勝手に自称してるのです。彼らはいつも自分らが流行に従ってるので、われわれまで流行に従ってるのだと言っています。しかし彼らがわれわれを気にかけていないと同様に、われわれのほうでも彼らを気にかけてはいません。彼らはまったく滑稽《こっけい》な馬鹿者どもで、フランス式であるものとないものとをわれわれに教えたがっています、古いフランスの生粋《きっすい》のフランス人たるわれわれに向かってです……。彼らはわれわれに向かって、わがフランスはラモーの中に――もしくはラシーヌの中に――あって、他にはないと高言しています。そしてベートーヴェンやモーツァルトやグルックが幾度か、われわれの炉のほとりに来て腰をおろし、われわれの愛する人々の枕辺《まくらべ》でわれわれとともに夜を明かし、われわれの苦痛を分かちにない、われわれの希望を力づけ……われわれの家庭の人となったということを、まるで知らないかのようです。けれどわれわれの考えを明らさまに言えば、わがパリーの批評家どもから祭り上げられてるフランスの某芸術家などこそ、われわれにとってはむしろ他国人なのです。」
「実際のところ、」とオリヴィエは言った、「もし芸術に国境があるとすれば、その国境は人種の間の境界というよりも、階級の間の境界と言うべきだ。フランスの芸術とかドイツの芸術とかいうものがあるかどうか、僕は知らない。しかし富んでる者らの芸術があり、また、富んでいない者らの芸術がある。グルックは偉大なる中流人であって、われわれと同階級のものである。ところが、僕は今はっきり名ざしたくないが、フランスの某芸術家などはそうでない。彼は中流階級に生まれてはいるけれど、われわれを不名誉だとし、われわれをしりぞけている。それでわれわれのほうでも、彼をしりぞけてるのだ。」
オリヴィエの言うところは真実だった。クリストフはフランス人をよく知れば知るほど、フランスの善良な人々とドイツのそれらとの間の類似に驚かされた。アルノー夫妻は、芸術に
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