解し得るはずだった。しかしそういうりっぱな人々も一般に、規律に撓《たわ》められ、自分の仕事に心を奪われ、仕甲斐《しがい》のない職業のためにたいていは多少とも苛辣《からつ》になっていて、オリヴィエが自分らと異なったことをやりたがるのを許し得なかった。善良な官吏として彼らは、才能の優越が階級の優越と調和するときにしか、才能の優越を認めたがらない傾向をもっていた。
そういう事態にあっては、三つの手段しかあり得なかった。暴力をもって抵抗をうち砕くこと、譲歩して屈辱的な妥協をなすこと、あるいは、あきらめて自分のためにばかり書くこと、オリヴィエには、第一の手段も第二の手段も取り得なかった。彼は第三の手段に身を託した。彼は生活のために厭々《いやいや》ながら出稽古《でげいこ》をし、そのかたわら、筆を執った。その作品は大気のうちに花咲く望みがなくて、色|褪《あ》せてき、空想的な非現実的なものとなっていった。
そういう薄明の生活のまん中に、クリストフが暴風雨のように落ちかかってきたのだった。人々の賤劣《せんれつ》さとオリヴィエの気長さとに、彼は腹をたてた。
「いったい君には血の気がないのか。」と彼は叫んだ。「そんな生活をどうして我慢できるのか。あんな畜生どもよりすぐれてることを自分で知っていながら、手向かいもせずに踏みつぶされるままになってるじゃないか。」
「ではどうせよと言うのか。」とオリヴィエは言った。「僕には身を守ることができないのだ。軽蔑《けいべつ》してる奴《やつ》らと戦うのは厭《いや》なんだ。向こうでは僕にたいしてどんな武器でも用うるにきまってる。そして僕にはそんなことはできはしない。僕は彼らのような不正な方法に?ることが厭なばかりでなく、彼らを害するのも心苦しいのだ。僕は子供のときには、ばかばかしく仲間からなぐられてばかりいた。卑怯者《ひきょうもの》だと思われ、拳固《げんこ》を恐《こわ》がってるのだと思われていた。けれどなぐられるよりも人をなぐるほうがずっと恐かったのだ。腕白者の一人にいじめられたある日、だれかにこう言われた。『一遍うんとやっつけて片をつけてしまえ。彼奴《あいつ》のどてっ腹を蹴破《けやぶ》ってやれ。』ところがそれが僕には非常に恐かった。そんなことをするよりむしろなぐられているほうがよかった。」
「君には血の気がないんだ。」とクリストフは繰り返した。「その
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