方はわれわれを征服したことと思い、われわれの大通りで、われわれの新聞雑誌の中で、われわれの演劇舞台や政治舞台の上で、威張りちらしている。馬鹿な奴だ。実は東方こそ征服されてるのだ。東方はわれわれの養分となった後に、やがてみずから排泄《はいせつ》されてしまうだろう。ゴールの国は丈夫な胃袋をもってるのだ。二十世紀間のうちに、一つならずの文化を消化しつくした。われわれは毒にも堪えることができる……。恐れるのは君たちドイツ人にはいいだろう。純粋であるかもしくは存在しないか、そのいずれかが君たちの道だ。しかしわれわれフランス人にとっては、純粋は問題ではない。世界的ということが問題なのだ。君たちは皇帝をもってるし、大ブリテンは帝国だと自称してる。しかし事実において、わがラテン精神こそ帝王的なのだ。われわれは世界市の市民である。ローマと世界とに[#「ローマと世界とに」に傍点]またがる者である。」
「国民が壮健で気力盛んな間は、それもうまくゆくだろう。」とクリストフは言った。「しかしいつかはその精力が衰えてくる。すると国民は、そういう外来の流れに沈められる恐れがある。君との間だけの話だが、もうそういう日がやって来てるようじゃないか。」
「そんなことは、幾世紀も前からたびたび言われてきた。だがいつもわが国の歴史はその恐れを打ち消してしまったのだ。人なきパリーに狼《おおかみ》の群れが彷徨《ほうこう》していたあのオルレアンの少女の時代この方、われわれは他の多くの困難をきりぬけてきたのだ。現時の、不道徳の跳梁《ちょうりょう》、快楽の追求、懦弱《だじゃく》、無政府状態、などを僕は少しも恐れない。忍耐だ! 持続せんと欲する者は堪え忍ばなければならない。僕はよく知ってる、このつぎには道徳的な反動が起こってくるだろう! がそれももとより、ずっとよいものではないだろうし、おそらくは同じようなくだらないものに帰着するだろう。今日一般の腐敗に生きてる奴らこそ、その反動をもっとも騒々しく導くだろう。……しかしそんなことはわれわれにとってはどうでもいいのだ。それらの運動は真のフランス民衆に触れはしない。果実が腐っても親木は腐りはしない。腐った果実は地に落ちるだけだ。そのうえ、そういう連中は国民としてはわずかな部分だ。彼らが生きようと死のうと、われわれにはなんらの痛痒《つうよう》もない。彼らに反して徒党を結んだ
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