、思うまま怒《おこ》らして泣かせかけると、彼女は下にすべり降り、彼に飛びつき、笑いながら彼を揺すり、「泣きむし」と彼を呼び、彼を地面にころがして、一握りの草をその鼻先にこすりつけた。彼は手向かいしようとしたが、その力がなかった。するともう身動きもせず、黄金虫《こがねむし》のように仰向けにひっくり返って、痩《や》せた両腕をアントアネットの頑丈《がんじょう》な手で芝生《しばふ》に押えつけられた。悲しげなあきらめた様子だった。アントアネットはその様子に気が折れた。打ち負けて屈伏してる彼をながめた。そして突然笑い出し、いきなり彼を抱擁して、そのまま置きざりにした――それでもなお、別れの挨拶《あいさつ》の代わりに、丸めた生草を彼の口へ押し込んだ。彼はそれを何よりもきらっていた、非常に厭《いや》な味だったから。彼は唾《つば》を吐き、口を拭《ぬぐ》い、ののしりたてたが、彼女は笑いながら一散に逃げていった。
 彼女はいつも笑っていた。夜眠ってからもなお笑っていた。隣室で眠られないでいるオリヴィエは、いろんな話を一人で考え出してる最中に、彼女の狂気じみた笑い声や、夜の静けさの中で彼女が言ってる途切れ途切
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