れの言葉などを、ふと耳にしてはびっくりした。外では、樹木が風に吹かれて音をたて、梟《ふくろう》が悲しげに鳴き、遠い村の中や森の奥の農家で、犬がほえていた。夜の蒼白《あおじろ》いぼんやりした明るみの中に、樅《もみ》の重い黒い枝が幽鬼のように揺らめくのが、窓の前に見えていた。そしてアントアネットの笑い声は、彼にとっては一つの慰撫《いぶ》であった。
二人の子供は、ことにオリヴィエは、きわめて信心深かった。父は例の反僧侶《はんそうりょ》主義的言説で彼らに眉《まゆ》をひそめさしたが、しかし彼らを放任しておいた。実のところ彼は、無信仰な多くの中流人士と同じく、家族の者らが自分に代わって信仰してることを厭《いや》には思っていなかった。敵の陣中に味方をもってるのはいつも結構なことであり、どちらへ運が向いてくるかわかったものではない。要するに彼は自然教信者であって、父親がなしたとおりに、時が来たら牧師を招く余地を残しておいた。それは益にならないとしても、害になるはずはない。火災保険を契約するためには、焼けることを信ずる必要は別にない。
病身なオリヴィエは、神秘説への傾向をもっていた。彼はときとする
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