さな町。その周囲には、単調な田野、耕作地、牧場、小さな流れ、大きな森、単調な田野……。美景もなく、塔碑もなく、古跡もない。人の心をひきつけるようなものは何もない。しかし、すべてが人を引き留めるようにできている。その無気力|懶惰《らんだ》のうちには、一つの力が潜んでいる。それを初めて味わう者は、悩みと反発心とをそそられる。けれども、その印象を数代つづいて受けてきた者は、もはやそれから離脱することができない。すっかり沁《し》み込まれている。その事物の沈滞、そのなごやかな倦怠《けんたい》、その単調さは、彼にとって一つの魅力であり、深い甘美であって、彼はそれをみずから知ってはいず、あるいは貶《けな》しあるいは好むが、長く忘れることはできないであろう。
ジャンナン家の人たちはいつもそこに生活してきた。町の中や近郊において、十六世紀まで家系をさかのぼることができた。というのは、一人の大|伯父《おじ》が一生をささげて、この無名な勤勉なつまらない人たちの系統を調べ上げたからである。農夫、小作人、村の職人、つぎには、僧侶《そうりょ》、田舎《いなか》の公証人、などであって、しまいにその郡役所所在地に来
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