「千一夜物語」に傍点]、旅行小説、などを読んだ。フランスの田舎《いなか》の小さい町の少年をときどき苦しめる、遠い土地にたいする怪しい郷愁、「あの大洋の夢」、それを彼もやはりもっていたのである。枝葉の茂みにさえぎられて家が見えなかったので、彼はごく遠い所にいるのだと思うことができた。それでも、すぐ近くにいることを知っていて、少しも不安ではなかった、というのは、一人きりで遠くへ離れることをあまり好まなかったから。彼は自然の中に埋もれた心地がしていた。周囲には樹木が波打っていた。木の葉がくれに遠く、黄色がかった葡萄《ぶどう》畑が見え、また牧場も見えた。斑《まだら》の牝牛《めうし》が牧場の草を食べていて、そのゆるやかな鳴き声は、うつらうつらしてる田舎の静けさを満たしていた。鋭い声の雄鶏《おんどり》が農家から農家へ答え合っていた。納屋《なや》の中の連枷《からざお》の不規則な律動《リズム》が聞こえていた。そして、万象のかかる平和の中にも、無数の生物の熱烈な生活が満々と流れつづけていた。オリヴィエは気がかりな眼で見守った、いつも急いでる蟻《あり》の縦列、オルガン管のような音をたてながら重い分捕品をに
前へ
次へ
全197ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング