恐ろしい噺《はなし》をしてくれる老婢《ろうひ》もいた……。ついに晩となる。音もなく飛び回る蝙蝠《こうもり》、また、古い家の内部に動めいてるのがよくわかる恐ろしい怪物、大きな鼠《ねずみ》や毛の生《は》えた大|蜘蛛《ぐも》など、それから、何を言ってるのか自分でもよくわからない、寝台の足もとでの祈祷《きとう》、尼たちの就寝時間を告げる近くの僧院の小さい鐘の急な音。そして、白い寝床、夢の小島……。
 一年じゅうでもっとも楽しい時期は、春と秋とに、町から数里隔たった自家の所有地で暮らす時だった。そこでは気ままに夢想することができた。だれにも会わないでよかった。小さな中流人士の多くと同様に、二人の子供は、婢僕《ひぼく》や農夫などの平民たちから遠ざかっていた。二人は彼らに会うと、多少の恐れと嫌悪《けんお》とを心の底に覚ゆるのだった。手先の労働者らにたいする、貴族的な――あるいはむしろ、まったく中流人的な――軽侮の念を、二人は母から受けていた。オリヴィエは秦皮《とねりこ》の枝の間に登って、不思議な話を読みながら日を過ごした。愉快な神話、ムゼウスやオールノア夫人の小話[#「小話」に傍点]、千一夜物語[#
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