い、そういう探索、精神上の羞恥《しゅうち》を失った行ないであった。グリューネバウム家の人々にたいする彼女のやや尊大な控え目は、彼らの気分を害した。そしてもとより彼らは、自分らの厚かましい好奇心を正当とし、それからのがれようとするアントアネットの考えを不当とするために、高い道徳上の理由を見出した。彼らは考えた、「家に同居し家族の一員となり、子供らの教育を引き受けてる若い娘の、内心の生活を知ることは、自分たちの義務である。自分たちは責任がある。」――(これは、多くの主婦たちがその召使どもについて言うところと同じである。その「責任」というのは、不幸な召使どもから一つの労苦や一つの不快をも除いてやろうとはしないで、ただ彼らにあらゆる種類の楽しみを禁じようとばかりするのである。)――彼らは結論した、「良心の命ずるかかる義務を認めることをアントアネットが拒むなら、それは彼女が多少自責すべき点をみずから感ずるからである。正しい娘は何も隠すべきものをもっていないはずである。」
 かくて、アントアネットはたえず周囲からうかがわれていた。それにたいして彼女は常に身を守った。そのために平素よりはさらに冷やかなうち解けない様子となった。
 弟からは毎日、十二ページもの手紙が来た。そして彼女も毎日なんとかして、たとい二、三行でも書き送った。オリヴィエはつとめて大人びた態度をして、悲しみをあまり示すまいとした。しかし彼はやるせなくてたまらなかった。彼の生活はいつも姉の生活とごく密接に結合していたから、今や姉を奪い去られてみると、自身の半ばを失ってしまったような気がした。もう自分の腕をも足をも思想をも働かせることができず、散歩もできず、ピアノをひくこともできず、勉強もできず、何にもすることができず、夢想にふけることも――姉のことを夢みる以外には――できなかった。朝から晩まで書物にかじりついた。しかし何にもためになることはなし得なかった。考えはよそにあった。苦しむか、または姉のことを考えた。前日来た手紙のことを考えた。眼を時計にすえて、今日の手紙を待った。手紙が来ると、その封を開きながら、喜びに――また懸念に――指先が震えた。恋人の手紙は相手の手に気がかりな愛情の震えを起こさせるものであるが、それ以上だった。その手紙を読むのに、彼もまたアントアネットと同様に人目を避けた。手紙をみんな身につけていた
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