。そして夜には、最後に受け取ったのを枕の下に置いた。そして手紙がやはりそこにあるのを確かめるために、ときどき手でさわりながら、なつかしい姉のことを夢みて長く眠れなかった。いかに姉から遠く離れてる心地がしたことだろう! 郵便が遅れて、出された日の翌々日にしかアントアネットの手紙が着かないときには、ことに切ない思いをした。二人の間には二日二晩の距離がある!……彼はかつて旅をしたことがなかっただけになおさら、その時間と距離とを大袈裟《おおげさ》に考えた。彼の想像はいろいろ働いてきた。「ああ、もし姉が病気になったら! 会いに行くうちには死ぬかもしれない……。昨日なぜ数行しか書いて来なかったんだろう?……もし病気だったら?……そうだ、病気に違いない……。」彼は息がつけなかった。――また、その嫌《いや》な学校の中で、寂しいパリーの中で、冷淡な人たちの間にあって、姉から遠く離れたまま一人ぽっちで死にはすまいか、という恐怖になおしばしば襲われた。それを考えるだけでも病気になった。……「帰って来てくれと書き送ろうかしら?」――しかし彼は自分の卑怯《ひきょう》を恥じた。そのうえ、手紙を書き始めてみると、彼女とそうして言葉を交えるのが非常に幸福に感ぜられて、苦しんでることをしばし忘れてしまった。姉の顔を見、姉の声を聞くような気がした。そして姉に何もかも物語った。いっしょにいたときでさえ、それほどうち解けて熱心に話したことはなかった。「私の信実な、りっぱな、親愛な、親切な、慕わしい、恋しい恋しい姉《ねえ》様、」と彼は呼んでいた。それはまったく恋の手紙だった。
 その手紙は愛情でアントアネットを浸した。日々に彼女が呼吸し得る空気はそれだけだった。毎朝待ってる時間に手紙が着かないと、彼女は悲しくなった。グリューネバウム家の人たちが、不注意からかあるいは――ことによると――意地悪なからかいからか、手紙を彼女に渡すのを晩まで忘れたことが、二、三度あった。あるときなどは翌朝まで忘れられた。そのために彼女はいらだった。――新年には、二人は別に相談したわけではないが同じ考えをいだいた。二人とも長い電報――(高い料金がかかった)――を送って相手をびっくりさした。その電報はどちらもちょうど同じ時刻に届いた。――オリヴィエはなおつづいて、自分の勉強や疑惑についてアントアネットに相談した。アントアネットは助言し
前へ 次へ
全99ページ中70ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング