たがいに矛盾してるのみでなく、また同じ新聞雑誌のうちでも、各記事ごとにたがいに矛盾していた。そのすべてを読んでたら、目がまわるかもしれないほどだった。幸いにも、各記者は自分の論説しか読んでいなかったし、公衆はどの論説も読んではいなかった。しかしクリストフは、フランスの音楽家らについて正確な観念を得たかったので、何一つ見落とすまいとつとめた。そして彼は、魚が水中を泳ぐように平然と、矛盾の中に動き回ってるこの民衆の、快活な冷静さに感嘆させられた。
それらの錯雑した意見の中で、一つの事柄が彼の心を打った。それは多くの批評家の学者的な態度であった。フランス人は何事をも信じないすてきな空想家だとは、だれの戯言《たわごと》ぞ! クリストフが見たフランス人は、ラインの彼方《かなた》のあらゆる批評家よりも、さらに多く音楽上の知識をそなえていた――何にも知らない時でさえも。
この当時、フランスの音楽批評家は、音楽を学び知ろうとつとめていた。すでに音楽を知ってる者も幾人かあった。それらは皆独創家で自分の芸術に関する考察に努力し、みずから一人で思考しようとしていた。もとよりそれらの人々は有名ではなかった
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