叙情劇一幕。しかもドイツやロシアやスカンジナヴィアやフランスなど各国でできたもの――ビールやシャンパンや巴旦杏《はたんきょう》酒や葡萄《ぶどう》酒――を、彼らはすべて一気に飲み下した。この愚図《ぐず》のフランス人らがそんな大きな胃袋をもってるのに、クリストフは感嘆させられた。だが彼らはそれくらいのことには平気だった。ダナイードの樽《たる》……いくらつぎ込んでも底には何も残らなかった。
 やがてクリストフは、かく多量の音楽も、結局はごく少量にすぎないことを気づいた。あらゆる音楽会に同じ顔と同じ楽曲とを見出した。その豊富な番組は、決して一定の範囲を出てなかった。ベートーヴェン以前のものはほとんど何もなかった。ワグナー以後のものはほとんど何もなかった。また中間のものもまったく欠けていた。ドイツで著名な五、六人の作と、フランスで著名な三、四人の作と、また仏露同盟以来は、ロシアの五つ六つの曲とに、音楽はすべて限られてるかのようだった。――古いフランス人のものは何もなかった。イタリーの大家のものは何もなかった。十七、八世紀のドイツの偉人のものは何もなかった。リヒァルト・シュトラウス一人を除けば、現
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