ては席について、目配せをしあった。やって来るのが済むと、帰りかける者が出てきた。クリストフはそれらの雑踏の間にも、頭の力を集中して作品の筋をたどった。そして非常な努力を払ってから、愉快を感ずるようになった。――(なぜなら、その管絃楽団は上手《じょうず》だったし、またクリストフは長い間交響曲を聞かないでいたから。)――するとちょうどグージャールが、彼の腕を取って、演奏最中に言った。
「もう出かけよう。ほかの音楽会へ行こう。」
クリストフは眉《まゆ》をしかめた。しかしなんとも答え返さないで、案内されるままに従った。二人はパリーを半分ほども横切って他の音楽会場へ着いた。馬小屋みたいな匂《にお》いがする広間で、時間を違えて、夢幻的なものと通俗的なものとをやっていた。――(パリーにおいては、音楽は、二人組んで一つの室を借りる貧しい労働者に似ていた。一人が寝床から出ると、その温《あたた》かい蒲団《ふとん》の中にも一人がはいるのである。)――もとより空気は通わない。ルイ十四世以来フランス人は、空気を不健康なものだと考えている。そして劇場の衛生法は、ヴェルサイユ宮殿の昔の衛生法のように、少しも息をし
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