少しも高ぶらず、おとなしく、内気で、みずから学ぼうとばかりしていた。優越な様子と高飛車な調子とを一時取るのは、多くの者といっしょの時だけであった。それにまた、みずから学ぼうとする彼の志望は、いつも実際的な性質を帯びてるのだった。当面のことでないものには、少しも興味をもたなかった。ところで目下は、手元に届いたある総譜について、クリストフの意見を知りたがっていた。ろくにその音符も読めなかったので、どう考えていいかすこぶる困ってるのだった。
二人はいっしょにある交響曲演奏会へ行った。入口はある演芸場と共通になっていた。曲がりくねった狭い廊下を通って、出口のない広間に達した。中の空気は息苦しかった。座席は狭すぎるうえにぎっしりつまっていた。聴衆の一部分は出入口をふさいでつっ立っていた。すべてフランス式の不快さだった。退屈《たいくつ》でたまらながっているらしい一人の男が、ベートーヴェンの交響曲《シンフォニー》を、早く終えたいと思ってるかのように急速度で指揮していた。隣りの奏楽珈琲店から響いてくる腹踊りの折り返し句が、エロイカ[#「エロイカ」に傍点]の葬送行進曲に交っていた。聴衆はたえずやって来
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