な顔をした。二度目にはシルヴァン・コーンへ向かって、もう彼の家では演奏しないときっぱり言い切った。シルヴァン・コーンは神かけて、これからだれも招かないと誓った。しかし彼は呼んだ客たちを隣室に入れて、ひそかに前どおりにしつづけた。もとよりクリストフは長く気づかないではいなかった。彼は腹をたてて帰ってゆき、このたびはもう二度とやって来なかった。
 それでも彼は、コーンを許してやらなければならなかった。コーンは彼を国家的偏見のない家庭に紹介して、稽古《けいこ》の口を見つけてくれたのであった。

 テオフィル・グージャールの方は、幾日かあとに、クリストフをその汚《きたな》い住居へ、自分から訪ねてきた。彼はクリストフのみじめな生活を見ても、さらに嫌気《いやけ》を示さなかった。否かえって愛嬌《あいきょう》がよかった。彼は言った。
「時々音楽を少し聞くのも、君には愉快だろうと思ったし、僕はどこへでもはいれるので、誘いに来たんです。」
 クリストフはたいへんうれしがった。向こうの志をいかにも親切に感じて、心から感謝した。グージャールは、最初の晩とはまったく様子が変わっていた。二人でさし向かいになると、
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