かし最もいけないのは、シルヴァン・コーンが馬鹿げたことをする時ではなくて、深奥な精緻《せいち》なことを言いたがる時であり、クリストフの眼に自分を見せかけたがる時であり、シルヴァン・コーンではなくハミルトンが口をきく時であった。そういう時クリストフは、嫌悪《けんお》の眼つきを彼に注ぎ、冷酷な悪罵《あくば》を彼に浴びせかけた。ハミルトンの自尊心はそれに傷つけられた。ピアノの演奏会も喧嘩《けんか》に終わることがしばしばだった。しかし翌日になるとコーンはもう忘れてしまっていた。クリストフは自分の乱暴さを後悔して、またやって来ざるを得なかった。
それでもなお、もしコーンがクリストフの演奏に他人を招待するのを控えていたら、何事もなく済んだはずである。ところが彼は友人の音楽家を人に見せびらかしたがった。――最初招かれて来たのは三、四人のユダヤ人と、コーンの情婦とであった。彼女は白粉だらけの大きな馬鹿げきった女で、つまらない洒落《しゃれ》をくり返し言い、食べたもののことばかりを話し、しかも、毎晩|寄席《よせ》でへんてこな踊りをしてるからというので、音楽家だとうぬぼれていた。――クリストフは嫌《いや》
前へ
次へ
全387ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング