いんうつ》な思想中にもみやびな饒舌《じょうぜつ》を見出していた。嬰ハ短調の四重奏曲[#「嬰ハ短調の四重奏曲」に傍点]も、彼にはちょっと小気味よいものだと思えた。第九交響曲[#「第九交響曲」に傍点]の崇厳なアダジオは彼に大天使を想像さした。ハ短調の交響曲[#「ハ短調の交響曲」に傍点]を開く三つの音のあとで彼は、「はいってはいけない、人がいるぞ!」と叫んだ。彼は英雄の生涯[#「英雄の生涯」に傍点]の戦争の章に、自動車の響きが認められるからと言って、それを嘆賞した。その他いつでも、楽曲を説明するのに比喩《ひゆ》の事柄をもち出したが、それも幼稚な的はずれのものばかりだった。どうして彼が音楽を好むのか不思議なほどだった。それでも彼は音楽を好んでいた。ある曲を聞くと、最も滑稽《こっけい》な理解の仕方をしながらも、眼に涙をためることさえあった。しかし、ワグナーの一場面に感動したあとに、オフェンバッハのギャロップをピアノでたたき出したり、喜びの頌歌[#「喜びの頌歌」に傍点]を聞いたあとに、奏楽珈琲店のたまらない一節《ひとふし》を口ずさんだりした。するとクリストフは飛び上がって、憤りの声をたてた。――し
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