を感じた。ただ不幸にも、彼は黙ってることができなかった。クリストフが演奏してる間にも、声高に口をきかずにはおられなかった。音楽会に臨んだ気取りやのように、大袈裟《おおげさ》な賛辞を音楽に加えたり、あるいはとんでもない考案を述べたりした。するとクリストフはピアノを打ちたたき、こんなではひきつづけられないと言ってのけた。コーンは黙ってようとつとめた。しかし自分を押えることができなかった。またすぐに、冷笑したり、唸《うな》り声を出したり、口笛を吹いたり、指先で調子を取ったり、鼻声を出したり、楽器の真似《まね》をしたりした。そして一曲が終わることに、自分のくだらない意見をぜひともクリストフに述べようとした。
 彼は、ゲルマン風の感傷性と、パリー人的な空威張《からいば》りと、生来の自惚《うぬぼ》れとが、不思議に混合してる人物だった。あるいは得意げな気取った判断を述べ、あるいは不条理な比較を試み、あるいは無作法なこと、卑猥《ひわい》なこと、狂気じみたこと、駄洒落《だじゃれ》めいたこと、などを口にした。ベートーヴェンをほめるのに、その作品には悪ふざけや淫蕩《いんとう》な肉感があると言っていた。陰鬱《
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