タインのような左手とパデレウスキーのような右手を――(あるいは反対かもしれないが)――もってると断言した。二人とも口をそろえて、かかる才能が長く埋もれるはずはないと公言し、その真価を世に紹介しようと約した。そしてまず手始めに二人とも、できるだけの名誉と利益とを自分のために引き出すつもりだった。
その翌日から、シルヴァン・コーンはクリストフを自宅に招いて、もってはいるがなんの役にもたてていないりっぱなピアノを、親切にも勝手に使わしてくれた。クリストフは音楽をやりたくてたまらながっていたので、少しも遠慮せずに承諾した。その招待を利用した。
初めのうちの晩は、万事都合よくいった。クリストフはピアノがひけるのでこの上もなくうれしかった。シルヴァン・コーンは控え目な態度をして彼を静かに享楽さしておいた。そして彼自身も心から享楽していた。だれでも認め得るおかしな現象の一つではあるが、この男は、音楽家でなく、芸術家でもなく、最も干乾《ひから》びた心をもち、あらゆる詩趣や深い慰悦の情などに最も乏しくはあったが、クリストフの音楽から肉感的な魅惑を受けた。少しも理解しはしなかったが、一つの快楽的な力
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