ば、そういう大家連中にはしきりに腰を低くしていた。その他の者にたいしては軽蔑《けいべつ》的な態度を取り、また食うに困ってる者を利用していた――それは馬鹿なやり方ではなかった。
彼は権威を得また名声を博したにもかかわらず、内心では、少しも音楽に通じていないことを知っていた。そしてクリストフが音楽にきわめて理解深いことを認めた。用心して口へは出さなかったが一種の威圧を感じた。そして今、クリストフの演奏に耳を傾けた。余念なくじっと注意を凝らしてるようなふうで理解しようとつとめた。そしてこの音楽の霧の中に何物をも見て取ることができなかったけれども、じっとしてるのを苦しがってるシルヴァン・コーンの瞬《またた》きに応じて、賞賛の様子を示しながら、もっともらしくうなずいていた。
ついにクリストフは、酒と音楽との陶酔から次第に覚《さ》めてきて、背後に行なわれてる無言の所作をぼんやり感づいた。ふり向いて見ると、二人の愛好家が立っていた。二人はすぐに彼へ駆け寄って、力強く握手をした。――シルヴァン・コーンは、彼が神のように演奏したと甲高《かんだか》に叫び、グージャールは学者ぶった様子で、彼がルビンシュ
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