。テオフィル・グージャールは、自分の大臣が失脚しそうになると、取れるだけのものを取ってから見捨ててしまった。ことに勲章をおもに引き出した。栄誉が好きだったのである。それからやがて、保護者もまた自分自身も、かなりきびしい打撃を受け始めると、もう政治に厭気《いやけ》がさして、騒動の害を被らないような仕事を、他人に迷惑をかけても自分は迷惑を受けないような安全な地位を、捜し求めた。何から考えても批評界がいちばんよさそうだった。ちょうどパリーのある大きな新聞に、音楽批評の口があいていた。この前それを受け持ってた者は、才能ある青年作曲家だったが、作品や作家にたいしてあくまでも自分の意見を述べるので、やめさせられたのだった。グージャールはかつて音楽に関係したことがなく、音楽については何も知らなかった。がすぐに選ばれてしまった。才幹のある候補者はいくらもあった。しかし少なくともグージャールなら、なんらの心配もいらなかった。彼はばかばかしく自説を重んじはしなかった。いつでも編集者の命令どおりに、非難をも賛辞をも書くのだった。音楽家でないなどということは、第二義的の問題だった。フランスではだれでもかなり音
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