おくために娘と結婚さしたという噂《うわさ》に、彼らの話は落ちていった。クリストフは椅子《いす》の上でいらだちながら、渋面《じゅうめん》をしていた。コーンはその様子に気づいた。そして隣りの者を肱《ひじ》でつつきながら、あのドイツ人が話にやきもきしているところを見ると、きっとその婦人を知りたくてたまらながってるに違いないと、注意してやった。クリストフは真赤《まっか》になって口ごもっていたが、ついに憤然として、そういう女こそ鞭《むち》打つべきだと言った。人々はどっと笑い出してその提議を迎えた。するとシルヴァン・コーンはやさしい声で、花や……何……何……をもってしても、婦人にさわるべきではないと抗議した。(彼はパリーにおいて、愛の騎士であった。)――クリストフはそれに答えた、そういう種類の女は牝犬《めすいぬ》に等しいものであって、よからぬ犬にたいしては、ただ一つの良薬すなわち鞭《むち》があるばかりであると。人々はやかましく異議をもち出した。クリストフは言った、彼らの任侠《にんきょう》は偽善であって、婦人を最も尊敬しているらしい口をきく者こそ、最も婦人を尊敬しないのが常であると。そして彼はその破
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