となして、それを全然廃滅させるものであった。
クリストフはその革命的天才にたいする意見を差し控え、作品を見てから何か言うつもりではあったが、人々が音楽全体をささげつくしてるその音楽上のバール神にたいして、疑惑を感ぜざるを得なかった。また楽匠らにたいするかかる言を聞くと、不快な気がした。つい先ごろドイツにおいて彼自身、他の多くの楽匠らのことを云々《うんぬん》したのは、もう忘れてしまっていた。あちらでは芸術上の革命者をもって任じていた彼であり、批判の大胆さと血気に逸《はや》った率直さとで他人の気を害した彼でありながら、フランスで一言発しようとすると、保守的になってるのをみずから感じた。彼は論争しようとした。しかも理論を提出はするがそれを証明しようとはしない教養ある人間としてではなく、正確な事実を探求しそれで人を押えつけようとする職業家として、論議するの悪趣味をもっていた。彼は専門的な説明にはいることをも恐れなかった。論じながら彼の声は、この選良たちの耳には聞き苦しいほど調子高くなっていった。彼の議論とそれを支持する熱烈さとが、ともに彼らには滑稽《こっけい》に思われた。批評家グージャールは
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