。僕が紹介してやろう。」
 クリストフは服装がひどいからと断わったが駄目《だめ》だった。シルヴァン・コーンは彼を引っ張っていった。
 二人は大通りのある料理店にはいって、二階へ上がった。そこには三十人ばかりの青年らが集まっていた。二十歳から三十歳ばかりの連中で、盛んに議論をしていた。コーンはクリストフを、ドイツから来た脱獄者だと紹介した。彼らはクリストフになんらの注意も向けず、熱心な議論を中止しもしなかった。コーンも来る早々から、その議論に加わりだした。
 クリストフはそういうりっぱな連中に気後《きおく》れがして、口をつぐんだまま、懸命に耳を澄ました。彼は芸術上のいかなる大問題が議論されてるのか理解し得なかった――フランス語の早い饒舌《じょうぜつ》についてゆきかねたのである。いくら耳を澄ましても、ようやく聞き取り得るのは、「芸術の威厳」とか「著作者の権利」とかいう言葉に交ってる、「トラスト」、「壟断《ろうだん》」、「代価の低廉」、「収入額」などという言葉ばかりだった。がついに、商業上の問題であることに気づいた。ある営利組合に属してるらしい幾人かの作家が、事業の独占を争って反対の一組合が
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