てながら、世話をしようというクリストフを紹介し始めた。クリストフは冷やかな待遇に度を失って、帽子と原稿とを手にしながら身を揺っていた。コーンの言葉が終わると、それまでクリストフの存在を気にもかけないでいたようなヘヒトは、軽蔑《けいべつ》的にクリストフの方へ顔を向け、しかもその顔をながめもしないで言った。
「クラフト……クリストフ・クラフト……私はそんな名前をまだ聞いたことがない。」
クリストフは胸のまん中を拳固《げんこ》でなぐられたようにその言葉を聞いた。顔が赤くなってきた。彼は憤然と答えた。
「やがてあなたの耳へもはいるようになるでしょう。」
ヘヒトは眉根《まゆね》一つ動かさなかった。あたかもクリストフがそこにいないかのように、泰然と言いつづけた。
「クラフト……いや、私は知らない。」
自分に知られていないのはくだらない証拠だと考える者が、世にあるが、彼もそういう人物だった。
彼はドイツ語でつづけて言った。
「そしてあなたはライン生まれですね。……音楽に関係する者があちらに多いのには、実に驚くほどです。自分は音楽家だと思っていない者は、一人もないと言ってもいい。」
彼は冗談
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