てコーンの求めによって、二人を従えて隣りの室へはいった。二人にすわれとも言わなかった。火のない暖炉にもたれて壁を見つめたままつっ立っていた。
 ダニエル・ヘヒトは、四十年配の背の高い冷静な男で、きちんと服装を整え、いちじるしくフェーニキア人の特長を有し、怜悧《れいり》で不愉快な様子、渋めた顔つき、黒い毛、アッシリアの王様みたいな長い角張った頤髯《あごひげ》をもっていた。ほとんど真正面に人を見ず、冷やかなぶしつけな話し方をして、挨拶《あいさつ》までが侮辱の言のように響いた。でもその横柄《おうへい》さはむしろ外面的のものだった。もちろんそれは、彼の性格のうちにある軽蔑《けいべつ》的なものと相応じてはいたが、しかしなおいっそう、彼のうちの自動的な虚飾的なものから来るのであった。こういう種類のユダヤ人は珍しくない。そして世間では彼らのことをあまりよく言わない。彼らのひどい剛直さは、身体と魂との不治の頓馬《とんま》さ加減に由来することが多いけれども、世間ではそれを傲慢《ごうまん》の故《ゆえ》だとしている。
 シルヴァン・コーンは、気障《きざ》な饒舌《じょうぜつ》の調子で大袈裟《おおげさ》にほめた
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