自分一身のことをクリストフが心配してくれるのを、感動せずにはいられなかった。彼は世話をしてやりたい気持になった。
「ちょっと思いついたことがあるんだがね。」と彼は言った。「稽古《けいこ》の口があるまで、楽譜出版の方の仕事をしないかね。」
クリストフは即座に承知した。
「いいことがある。」とコーンは言った。「ある大きな楽譜出版屋の重立った一人で、ダニエル・ヘヒトという男と、僕は懇意にしてる。それに紹介しよう。何か仕事があるだろう。僕は君の知るとおり、その方面のことは何にもわからない。しかしあの男はほんとうの音楽家だ。君なら訳なく話がまとまるだろう。」
二人は翌日の会合を約した。コーンはクリストフに恩をきせて追っ払ったので、悪い気持はしなかった。
翌日、クリストフはコーンの店へ誘いに来た。彼はコーンの勧めによって、ヘヒトへ見せるために自分の作曲を少しもって来た。二人はヘヒトを、オペラ座近くの楽譜店に見出した。二人がはいって来るのを見ても、ヘヒトは傲然《ごうぜん》と構えていた。コーンの握手へは冷やかに指先を二本差し出し、クリストフの儀式張った挨拶《あいさつ》へは答えもしなかった。そし
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