ているんだ。どうして片付けていいかわからないほどだ。まったくやりきれない。病気にでもなりそうだ。」
「気分がすぐれないのかい。」とクリストフは気づかわしい調子で尋ねた。
 コーンは嘲《あざけ》り気味の一|瞥《べつ》を注いで答えた。
「まったくいけない。この数日へんてこだ。非常に苦しい気持がする。」
「そりゃたいへんだ!」とクリストフは彼の腕を取りながら言った。「ほんとに用心したまえ。身体を休めなけりゃいけないね。僕まで余計な心配をかけて、実に済まない。そう言ってくれりゃよかったのに。ほんとにどんな気持だい?」
 彼が悪い口実をもあまり真面目《まじめ》に取ってるので、コーンは愉快なおかしさがこみ上げてくるのをつとめて押し隠しながらも、相手の滑稽《こっけい》な純朴《じゅんぼく》さに気が折れてしまった。皮肉はユダヤ人らにとって非常に大きな楽しみであって――(この点においては、パリーにおけるキリスト教徒の多くはユダヤ人と同じである)――皮肉を浴びせる機会を与えてさえもらうならば、いかに不快な者にたいしても、また敵にたいしてまでも、とくに寛大な心をいだくようになるのである。そのうえコーンはまた、
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