を言うつもりであって、悪口を言うつもりではなかった。しかしクリストフは曲解した。彼は答え返そうとした。しかしコーンが先に口を出した。
「ですけれど、」と彼はヘヒトへ言った、「私だけは音楽を少しも知らないことを、認めていただきたいものですね。」
「それはあなたの名誉ですよ。」とヘヒトは答えた。
「音楽家でないことをあなたが喜ばれるなら、」とクリストフは冷やかに言った、「残念ですが私はもう用はありません。」
ヘヒトはやはり横を向きながら、同じ無関心な調子で言った。
「あなたは音楽を書いたことがあるそうですね。何を書きましたか。もとより歌曲《リード》でしょう?」
「歌曲《リード》と、二つの交響曲《シンフォニー》と、交響詩や、四重奏曲や、ピアノの組曲や、舞台音楽などです。」とクリストフはむきになって言った。
「ドイツではたくさん書くものですね。」とヘヒトは軽蔑《けいべつ》的なていねいさで言った。
この新来の男が、そんなにたくさんの作品を書いていて、しかも自分ダニエル・ヘヒトがそれを知らないだけに、彼はなおいっそう疑念をいだいていた。
「とにかく、」と彼は言った、「あなたに仕事を頼んでもいい
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