して、まっすぐにコーンのところへ行った。
 言いつけられていた給仕は、ハミルトン氏は所用のためパリーから出かけたと告げた。クリストフにとっては一打撃だった。彼は口ごもりながら、いつハミルトン氏は帰るのかと尋ねた。給仕はいい加減に答えた。
「十日ばかりしましたら。」
 クリストフは駭然《がいぜん》として家に帰った。その後毎日室に閉じこもった。仕事にかかることができなかった。自分のわずかな所持金――母がていねいにハンカチにくるんでカバンの底に入れて贈ってくれた些少《さしょう》な金額――が、どんどん減ってゆくのを見て恐ろしくなった。彼は切りつめた生活法を守《まも》った。ただ夕方だけ、夕食をしに階下の飲食店へ降りて行った。そこでは「プロシャ人」とか「漬菜《シュークルート》」とかいう名前で、早くも客の間に知れ渡ってしまった。――彼は非常な努力を払って、フランスの音楽家らへ二、三の手紙を書いた。それも漠然《ばくぜん》と名前を知ってるだけだった。十年も前に死んでる人さえあった。彼はそういう人々に、面会を求めた。綴字《つづりじ》はめちゃくちゃだったし、文体はドイツで習慣となってる、長たらしい語位転換と
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