じた。しかし手紙は出さなかった。どういう地位を見出したか知らせ得るまで待つことにした。二人はたがいに深い愛情をいだいていたにもかかわらず、愛してることだけを単に告げるような手紙を書くことは、どちらも考えていなかったに違いない。手紙というものは、はっきりした事柄を告げるためのものであった。――彼は寝台の上に寝そべり、頭の下に両手を組んで、ぼんやり考え込んだ。室は往来から隔たってはいたけれど、静けさのうちにはパリーのどよめきがこもっていた。家は揺れていた。――また夜となったが、手紙は来なかった。
 前日と同じような一日が、また始まった。
 三日目になって、クリストフは好んで蟄居《ちっきょ》していたのが腹だたしく思えて、外出しようと決心した。しかしパリーには、最初の晩以来、一種の本能的な嫌気《いやけ》を覚えていた。彼は何にも見たくなかった。なんらの好奇心も起こらなかった。自分の生活にあまり心を奪われていたので、他人の生活を見ても面白くなかった。過去の記念物にも、都会の塔碑にも、心ひかれなかった。それで彼は、一週間以内にはコーンの許《もと》へ行くまいときめていたものの、外へ出るや否や非常に退屈
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