て、故国にいる人々や父なるライン[#「父なるライン」に傍点]のために、ドイツ流の祝杯を挙げたがったので、コーンのいらだちは極度に達した。コーンは彼が今にも歌い出そうとするのを見てたまらなくなった。隣席の人々は二人の方を皮肉そうにながめていた。コーンは急な用務があるという口実を設けて立ち上がった。クリストフはそれにすがりついた。いつ推薦状をもらって、その家へやって行き、稽古《けいこ》を始めることができるか、それを知りたがった。
「取り計らってあげよう。今日、今晩にでも。」とコーンは約束した。「すぐに話をしてみよう。安心したまえ。」
 クリストフは執拗《しつよう》だった。
「いつわかるだろう?」
「明日《あした》……明日……または明後日。」
「結構だ。明日また来よう。」
「いやいや、」とコーンは急いで言った、「僕の方から知らせよう。君を煩わさないように。」
「なあに、煩すも何もあるものか。そうだろう。それまで僕は、パリーで何にも用はないんだ。」
「おやおや!」とコーンは考えた。そして大声に言い出した。「いや、手紙を上げる方がいい。しばらくは面会ができないかもしれない。宿所を知らしてくれたま
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