とクリストフは考えた、「この男は何にも知らないんだな。だからこんなに親切なんだ。知ったらがらりと変わってしまうだろう。」
 彼は昂然《こうぜん》と語りだした、自分を最も難境に陥らせるかもしれない事柄を、すなわち、兵士らとの喧嘩《けんか》、自分が受けた追跡、国外への逃亡などを。
 コーンは腹をかかえて笑った。
「すてきだ」と彼は叫んでいた、「すてきだ! 実に愉快な話だ!」
 彼は熱心にクリストフの手を握りしめた。官憲の鼻をあかしてやったその話を、この上もなく面白がっていた。話の主人公らを知っているだけになお面白がっていた。その滑稽《こっけい》な方面を眼に見るような気がしていた。
「ところで、」と彼はつづけて言った、「もう午《ひる》過ぎだ。つき合ってくれたまえ……いっしょに食事をしよう。」
 クリストフはありがたく承知した。彼はこう考えていた。
「これは確かにいい人物だ。俺の思い違いだった。」
 二人はいっしょに出かけた。途中でクリストフは思い切って要件をもち出した。
「君にはもう僕の境遇がわかってるだろう。僕は世に知られるまで、さしあたり仕事を、音楽教授の口でも、求めに来たんだが。僕を推
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