しい意地悪げな微笑をもっていた。華奢《きゃしゃ》な服装をして、身体の欠点を、高い肩や大きい臀《しり》を、隠そうとつとめていた。そういう欠点こそ、彼の自尊心をなやます唯一のものだった。身長がもう二、三寸も伸びて身体つきがよくなることなら、後ろから足蹴《あしげ》にされてもいとわなかったろう。その他の事においては、彼は自分自身にしごく満足していた。自分に敵《かな》う者はないと思っていた。実際すてきな男だった。ドイツ生まれの小さなユダヤ人でありながら、のろまな太っちょでありながら、パリーの優雅な風俗の記者となり絶対批判者となっていた。社交界のつまらない噂種《うわさだね》を、複雑な巧妙をきわめた筆致で書いていた。フランスの美文体、フランスの優美、フランスの嬌艶《きょうえん》、フランスの精神――摂政時代の風俗、赤踵《あかかかと》の靴《くつ》、ローザン式の人物――などの花形だった。彼は人から冷やかされていたが、それも成功の妨げにはならなかった。パリーでは滑稽《こっけい》は身の破滅だと言う人々は、少しもパリーを知らない輩《やから》である。身の破滅どころか、かえってそのために生き上がってる者がいる。パリ
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