なぜだかみずからいぶかった。やがて彼は、シルヴァン・コーンの雇われてる書店の名であることを思い出した。彼は所番地を書き取った。……しかしそれが何になろう? もとより尋ねてなんか行くものか……。なぜって?……友人だったあのディーネルの奴《やつ》でさえ、ああいう待遇をしたところを見ると、昔さんざんいじめられて憎んでるに違いない此奴《こいつ》から、何が期待されよう? 無駄《むだ》に屈辱を受けるばかりではないか。彼の血潮は反発していた。――しかしながら、おそらくキリスト教教育から来たらしい、先天的悲観主義の気質のために、彼は人間の賤《いや》しさをどん底まで感じてみようとした。「俺《おれ》は遠慮する必要はない。くたばるまではなんでもやってみなけりゃいけない。」
一つの声が彼のうちで言い添えた。
「そして、くたばるものか。」
彼はふたたび所番地を確かめた。そしてコーンのところへやって行った。少しでも横柄《おうへい》な態度に出たら、すぐにその顔を張りつけてやる決心だった。
書店はマドレーヌ町にあった。クリストフは二階の客間に上がって、シルヴァン・コーンを尋ねた。給仕が、「知らない」と答えた。ク
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