は忍び笑いをし、ディーネルは顔を赤らめた。この堂々たる人物が、クリストフと昔の関係をふたたびつづけたくないと思ったのには、種々の理由があった。彼は最初から威圧的な態度をしてクリストフを親しませないつもりだった。しかしクリストフの眼つきを見るや否や、その面前では自分がふたたび小さな少年になったような気がした。それが腹だたしくもあり恥ずかしくもあった。彼は急いで口早に言った。
「私の室に来ませんか。……その方がよく話しができていいでしょう。」
クリストフはそういう言葉のうちに、ディーネルの例の用心深さをまた見出した。
しかし、その室にはいって扉《とびら》を注意深く閉《し》め切っても、ディーネルはなかなか彼に椅子《いす》をすすめようともしなかった。彼はつっ立ったまま、へまに重々しく弁解しだした。
「たいへん愉快です……私は出かけるところでした……皆はもう私が出かけたことと思って……だが出かけなければならないんです……ちょっとしか隙《ひま》がありません……さし迫った面会の約束があるので……。」
クリストフは、店員が先刻|嘘《うそ》をついたことを悟り、その嘘は自分を追い払うためにディーネル
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