とも相談されたものであることを悟った。かっと血が頭に上った。しかし我慢をして冷やかに言った。
「何も急がなくたっていいよ。」
 ディーネルは身体をぎくりとさした。そういう無遠慮が癪《しゃく》にさわったのだった。
「なに、急がなくってもいいって!」と彼は言った。「用があるのに……。」
 クリストフは相手をまともにながめた。
「なあに。」
 大きな青年は眼を伏せた。彼はクリストフにたいして自分がいかにも卑怯《ひきょう》だという気がしたので、クリストフを憎んだ。そして不機嫌《ふきげん》そうにつぶやきだした。クリストフはそれをさえぎった。
「こうなんだ、」と彼は言った、「君も知ってるだろう……。」
(この君[#「君」に傍点]というような言葉使いにディーネルは気を悪くしていた。彼は最初の一言から、クリストフとの間にあなた[#「あなた」に傍点]という垣根《かきね》をこしらえようと、いたずらに努力していた。)
「僕がこちらへやって来た訳を。」
「ええ、知っている。」とディーネルは言った。
(クリストフの逃亡とその追跡とを、彼は通信によって知っていた。)
「それでは、」とクリストフは言った、「僕が遊び
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