ないでいる、中世都市の遺物かと思われた。前日からの霧は、じめじめした細雨に変わっていた、もう十時過ぎなのに、多くの店にはまだガス燈がついていた。
クリストフはヴィクトアール広場に接している街路の網目に迷い込んだ後、ようやくバンク街の店を尋ねあてた。中にはいりながら彼は、長い薄暗い店の奥に、多くの店員に交って大梱《おおこり》を並べてるディーネルの姿を、見かけたように思った。しかし少し近眼だったので、めったに誤ることのない直覚力をそなえてはいたが、視力には自信がなかった。迎え出た店員に名前を告げると、奥の人々の間にちょっとざわめきが起こった。何かひそかに相談し合った後、一人の若い男がその群れから出て来て、ドイツ語で言った。
「ディーネルさんはお出かけになっています。」
「出かけましたって? なかなか帰りませんか。」
「ええ、たぶん。出かけられたばかりですから。」
クリストフはちょっと考えた。それから言った。
「構いません。待ちましょう。」
店員はびっくりして、急いでつけ加えた。
「二、三時間たたなければお帰りになりますまい。」
「なに、それくらいなんでもありません。」とクリストフは平
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