それで彼は、彼のめちゃな言葉を聞いて給仕《ボーイ》が嘲笑《ちょうしょう》的な様子をしたのを、ひどく気に病みながらも、強《し》いて平気でいようとつとめた。そして元気を失わないで、なっていない文句を重々しく組み立てて、向こうにわかるまで執拗《しつよう》にくり返した。
彼はディーネルを捜し始めた。例によって彼は、頭に一つの考えがあると、周囲のことは何一つ眼に止まらなかった。初めて歩き回ってみると、パリーは古い乱雑な町であるという印象をしか得なかった。彼は元来、一つの新しい力の驕慢《きょうまん》が漂っているのが感ぜられる、ごく古いとともにごく若いドイツ新帝国の町々に慣れていた。そして今パリーから、不快な驚きを得た。横っ腹に穴のあいてる街路、泥《どろ》だらけの通路、押し合ってる人混《ひとご》み、入り乱れてる車――あらゆる形の乗り物があって、古い乗合馬車、蒸汽車、電車、その他各種の機関の車――歩道の上の露店、フロックコートをつけた人がいっぱい立ち並んでる広場には、いろんな木馬館(木馬というよりもむしろ、怪物であり化物であった)。普通選挙の恩恵に浴しながらも、古い賤民《せんみん》的な素質を脱しきら
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