段を通り、中庭に面してる風通しの悪い室へ通した。外の響きが達しない静かな室であることを自慢して、高い宿料を要求した。クリストフは、向こうの言うことがよくわからなかったし、パリーの生活状態を知らなかったし、肩は荷物で砕けそうになっていたので、すべてを承諾した。早く一人になりたかった。しかし一人になるや否や、物品の汚なさにびっくりした。そして、心に湧《わ》き上がってくる悲しみにふけらないため、にちゃにちゃする埃《ほこり》だらけの水に頭をひたしてから、急いで外に出かけた。嫌《いや》な気持からのがれるために、何にも見も感じもすまいとつとめた。
彼は街路へ降りた。十月の霧は濃く冷やかだった。霧の中には、郊外の諸工場の悪臭と都会の重々しい息とが混和してる、パリーの嫌な匂《にお》いがこもっていた。十歩先はもう見えなかった。ガス燈の光は、消えかかった蝋燭《ろうそく》の火のように震えていた。薄暗い中を群集が、ごたごたこみ合って動いていた。馬車が行き違いぶつかり合って、堤防のように通路をふさぎ交通をせき止めていた。馬は凍った泥《どろ》の上を滑《すべ》っていた。御者のののしる声、らっぱの響き、電車の鉦《か
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