、小言《こごと》をくっても平気で人込みを押し分けながら、ずんずん歩いていった。そしてついに、パリーのねばねばした舗石路の上に出た。
彼は自分の荷物のことや、これから選定する住居のことや、馬車の混雑の中に巻き込まれたことなどに、あまり気を取られていたから、何も見ようとは考えなかった。まず第一の仕事は、室を捜すことだった。旅館は不足していなかった。停車場の四方に立ち並んで、その名前がガス文字になって輝いていた。クリストフはなるべく光の薄いのを捜した。しかしどれも、彼の財布に適するほど下等ではなさそうだった。ついに彼はある横丁で、一階が飲食店になってる汚《きた》ない宿屋を見つけた。文明館[#「文明館」に傍点]という名だった。チョッキだけのでっぷりした男が、一つのテーブルでパイプを吹かしていた。クリストフがはいって来るのを見ると、その男は駆け寄ってきた。彼はクリストフの下手《へた》な言葉が少しもわからなかった。しかし一目見て、頓馬《とんま》な世慣れないドイツ人だと判断した。クリストフは彼に荷物を渡すのを拒んで、まるでなっていない言葉で意味を伝えようとしていた。彼はクリストフを案内して、臭い階
前へ
次へ
全387ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング