ね》の音が、耳を聾《ろう》するばかりの喧騒《けんそう》をなしていた。その音響、その動乱、その臭気に、クリストフはつかみ取られた。彼はちょっと立ち止まったが、すぐに、あとから来る人々に押され、流れに運ばれていった。ストラスブール大通りを下りながら、何にも眼にはいらず、へまに通行人へぶつかってばかりいた。彼は朝から物を食べていなかった。一歩ごとに珈琲店《カフェー》へ出会ったが、中に立て込んでる群集を見ては、気後《きおく》れがし嫌な心地になった。彼は巡査に尋ねかけた。しかし言葉を考え出すのにぐずぐずしていたので、巡査は終わりまで聞いてもくれずに、話の中途で肩をそびやかしながら向こうを向いた。クリストフは機械的に歩きつづけた。ある店先に人だかりがしていた。彼も機械的に同じく立ち止まった。それは写真や絵葉書の店だった。シャツ一枚のやまたはシャツもつけない女どもの姿が出ていた。絵入新聞には猥褻《わいせつ》な冗談が並んでいた。子どもや若い婦人らが平気でそれをながめていた。赤毛の痩《や》せた娘が、クリストフが見入っているのを見て、いろいろ申し込んできた。彼は意味がわからなくて彼女をながめた。彼女は愚か
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